早期発見・早期治療 年々増加する肺がんに立ち向かう
呼吸器外科について
当院の外科は、1984年に松林巌医師と小林秀雄医師により開設されました。呼吸器疾患への手術は自然気胸に対し開胸操作による肺縫縮術から開始しました。1990年頃から他院所の先生の応援を得ながら、肺がんに対する手術を行い、1994年9月からは、それまで開胸手術で行っていた自然気胸に対して胸腔鏡を用いた手術を始めました。2021年4月に片桐忍医師が研修から戻り、呼吸器疾患に対し新たな治療が展開されつつあります。安全に手術前後の管理をしつつ、治療の幅が広がって行くことに期待しながら、引き続き「患者さん一人ひとりに寄り添った治療」を常に意識し、医療スタッフ全員で最善の治療を追求します。
その1気 胸
肺の表面に突然穴が空いて、空気が漏れ、肺がしぼんだ状態をいいます。特に若くて細身、高身長の男性にみられることが多い疾患です。高齢者の場合は、喫煙習慣や栄養不良が起因すると考えられ、発症すると突然の胸の痛み、息苦しさ、咳などの症状が現れます。進行すると重症化し、生命の危機に陥る可能性もあるため、早めの治療が必要です。
その2膿胸(のうきょう)
肺炎が悪化して、肺の周囲に膿が溜まっている状態をいいます。高齢者や抵抗力が低下している人が肺炎を悪化させてしまった際に発症しやすい疾患です。主に倦怠感、高熱、咳、痰といった症状が現れます。口の中の細菌が原因となることが多いので、こまめな歯磨きによる口腔ケアや虫歯治療などが予防策として推奨されています。
その3肺がん
肺がんは、気管支や肺胞の細胞が何らかの原因でがん化したものです。「この症状があれば肺がん」という決まった症状はなく、自覚症状が出ないまま肺がんが進行してしまい、根治が難しい状態になってしまう場合も多くみられます。また、他の部位のがんと比べて進行が早い種類も多く、転移もしやすい傾向があります。咳や血痰、発熱、倦怠感、動悸、胸痛などが初期症状としてあげられますが、いずれも肺がん以外の呼吸器の病気にもみられるため、診断も難しい病気です。近年肺がんの罹患数と、死亡数は右肩上がりに増えています(上図)。今では日本における死亡要因の第一位が肺がんであり、その数も年々増加の一途をたどっています。そのため、まずは肺がんに罹患するリスクを下げることが重要です。
肺がんの予防と検診
日本人を対象としたがんの研究結果では、がん予防には禁煙、規則正しい生活、バランスのよい食事、適度な運動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。なかでも「禁煙」は肺がんの予防対策としては必須です。禁煙した場合、10年後には、禁煙しなかった場合と比べて肺がんのリスクを約半分に減らせることがわかっています。しかし、喫煙歴のない方にも発症する肺がんもあるため、予防対策をしつつ、年に一度は必ず検診を受けましょう。自覚症状が確認しづらい肺がんは、早期発見が何よりも大切です。
肺がん発見率はレントゲンの10倍超
低線量胸部CTで年1回の検診を
低線量胸部CTは、レントゲンでは見つからないような極小サイズの腫瘍もはっきりと写るので、早期の小さな肺がんの発見に役立つことが期待されています。通常のCTより低線量(放射線量が少ない)なので、体への負担を軽減でき、肺がん発見率はレントゲンに比べて10倍ほど高いことがさまざまな研究で報告されています。肺がんは、転移を起こす前の根治可能な時期に見つけ、適切な治療を、最適な時期に行うことが何よりも大切です。早期発見・早期治療をすることで、死亡率を大幅に下げることができます。当院では健康診断のオプションで低線量胸部CTが受けられます。特に喫煙者の方には年に一度の検診をおすすめします。
レントゲン(左)には写らないような小さながんも、低線量胸部CT(右)ならはっきりと写る
低線量胸部CT
一般 13,200円(税込)組合員 10,560円(税込)
(直通)026-234-3234 (平日10:00~16:00)
問い合わせ:ドック健診センター
肺がんについてインタビュー
困難な病気だからこそ知識の引き出しを増やして
患者さんに最適な治療法を提案していく
肺がん死亡数の抑制に光明 飛躍的な進歩をみせる肺がん治療
肺がんは自覚症状が乏しく、転移もしやすいがんです。早期に見つけ、早期に治療を開始すれば根治が望めますが、自覚症状を感じる頃には肺がんが進行している場合が多く、治療法が限られてしまいます。現時点で、肺がんの根治を目指すためには、早期がんのうちに手術によって切除する必要があります。しかし初期で肺がんを見つけるのは難しい…このジレンマが、肺がんが難治がんと呼ばれるゆえんです。しかしここ10年ほどで、肺がん治療を取り巻く状況は一変し、飛躍的な進歩を遂げてきました。放射線治療、化学療法のほか、免疫療法による治療の有効性も見出され、がんの中でもとりわけ死亡数が増え続ける肺がんに対して、好転的状況が広がりつつあります。
従来に比べて負担が軽減 胸腔鏡補助下手術「VATS」
患者さんの身体への負担が少ない胸腔鏡補助下手術「VATS」の普及もそのひとつです。従来の肺がんの手術は、脇から背中にかけて大きく切開する開胸手術が一般的で、術後の痛みや体力の低下、長期リハビリの必要性など、心身ともに負担が大きく、入院期間も長くなりがちでした。それに対して「VATS」は、胸腔鏡を使って手術を行います。従来の開胸手術に比べても傷口が非常に小さくてすむため、身体への負担が大幅に軽減され、術後1週間以内での退院が可能となりました。当院では2021年4月に「VATS」を導入しました。
患者さんに寄り添う治療の提案 早期発見のために定期的な検診を
もちろん疾患や手術箇所、状態によっては従来の開胸手術が良い場合もあるため、患者さんの安全や心境に配慮しつつ、最適な治療法を提案するようにしています。大切にしているのは「患者さんに寄り添う診療」です。目まぐるしく進化し続ける肺がん治療において、常に最新の情報を学び、患者さんにはあらゆる治療法を提示したいと思っています。そして、たとえ選択肢が手術のみだとしても丁寧な説明を心がけ、理解、納得していただいたうえで、患者さんに寄り添った治療を目指しています。最後に、胸腔鏡手術が行えるのは現段階では「早期」の肺がんに限られます。早期のうちに肺がんを発見するためには、定期的な検診と検査が大切です。年に一度は検診を受け「なんとなく息苦しい…」など、いつもと違うなと思うことがあれば、お気軽にご相談ください。
胸腔鏡補助下手術「VATS」とは
患者さんにやさしい「低侵襲手術」として、
近年肺がん治療に大きな役割を果たしています。
胸部に1~3cmの穴を3か所に空け、1つの穴から胸腔鏡を挿入します。胸腔鏡によって映し出された内部の様子をテレビモニターで見ながら、他の2つの穴から挿入した手術器具を操作して手術を行います。肋骨を切断しないなど、身体への負担が最小限ですむため、術後の痛みや体力の低下が少なく、回復も早い手術といえます。
外科
(呼吸器外科専門)
片桐 忍 医師
治療法について日々勉強
肺がんの治療法は日々進化しています。年に数回ある学会への参加はもちろん、常に新しい情報をキャッチできるよう意識しています。
患者さんの選択肢と治療への希望
あらゆる治療法の中から患者さんが希望した治療が受けられるよう配慮しています。治療のタイミングについても相談します。
my favorite
「肺がん」はメジャーな病気でありながら、特化している人が少ないと感じたため、呼吸器外科の専門医を志す。大学卒業後に購入したバイクをこよなく愛するが、今は通勤時の10分程度しか乗れていない。休日は4歳と2歳の子供を連れて公園へ遊びに行くのが日課。隙を見て愛車を磨くのが楽しみ。