脳卒中とは「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」など、脳の血管の詰まりや出血により脳が障害を受ける病気の総称です。
脳卒中は発症後治療しても後遺症が残ることが少なくありません。脳の細胞がダメージを負うことで、手足が動かなくなったり、うまくしゃべれなくなったりするなど、さまざまな症状が現れることもあります。しかしリハビリテーションを行うことで、後遺症による症状を軽減し、自立した日常生活を取り戻せる可能性が高まります。リハビリテーションによって、その人らしい生活が送れるようサポートする、それがリハビリテーション科の役目です。
長野中央病院 回復期リハビリテーション病棟の特徴
1980年に開設したリハビリテーション病棟には車いすトイレはなく、患者さんの排泄用にポータブルトイレが各部屋に用意してありましたが、数も少なかったので同室者で共用していました。これは当時の事務長が「ベッドの下に入る」手軽さと手ごろな値段から購入した背もたれも、肘掛けもない簡便なものでしたので、座位の安定しない患者さんはポータブルトイレからの転倒があり、骨折される方もいました。それからベッド周りの環境を安全にしたいという私たちの研究と挑戦が始まりました。
ベッドにつける移乗用の手すりがその後普及してきますが、当院ではオリジナルの「らくらくてすり」や「スーパー楽々手すりα」を用意し必要な患者さん全員のベッドにつくようになりました。そしてポータブルトイレは背もたれ、肘掛けの付いたデラックスタイプが良いと看護師が年々必要な患者の数まで増やしていきました。必要な人みんなにポータブルトイレを置くことができるようになり、「マイトイレ空間」「転べないベッド環境」を目指して一人ひとりにベッド環境を整備することが可能となりました。
すべての入院患者さんに必要な環境を用意し、そのあと患者さんの体力がつき動けるようになった時、不要な道具を少しずつ減らし、動くのに必要なものに変更していく。それが現在の取り組みです。
回復期リハビリテーションの役割
回復期で行うリハビリテーション
回復期リハビリテーション病棟では、医学的、社会的、心理的なサポートが必要な患者さんに対して、さまざまな専門職がチームを組んで集中的なリハビリテーションを実施します。運動機能の回復をはじめ、衣服の着脱、食事、歩行など、個人の能力に合わせて日常生活に必要な動作を獲得するためのリハビリテーションを行います。
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理学療法
運動療法、物理療法を用いて、主として関節や筋肉などの機能の回復を図り、基本的動作(起きる、座る、立つ、歩く)の練習を行うことで日常生活動作の改善を目指します。
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作業療法
作業活動を通じて、主として手の機能回復させることを目的とします。道具の利用や動作の工夫を行い日常の生活が楽になるように実践的な動作練習を実施しています。
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言語療法
話すこと、聴くことなどのコミュニケーションをとる練習、口から安全に食べられるように噛む・飲み込む練習・指導を行います。
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立ち上がり練習
日常生活を行う上で必要な動作が行えるよう筋力強化を目的に、毎日立ち上がり練習を集団で100回行います。
脳卒中のリハビリテーションについてインタビュー
できることを増やし、
その人らしい生活を取り戻せるよう
回復のサポートを
患者さん&家族と相談し 一人ひとりのゴールを設定します
リハビリテーション科では、患者さんが自宅に帰った後の生活期をより自立した生活ができるようにサポートします。症状は患者さん一人ひとり違うので、それぞれの症状を鑑みて、一人ひとりのゴールを設定します。その人にとって何がゴールになるのか、車椅子に乗れるようになることなのか、歩けるようになることかなど、本人、そしてご家族の希望を聞いて、それぞれのゴールに向けリハビリテーションを行います。
さまざまな専門スタッフが一丸となり、患者さんをサポート
入院期間中、いかにできることを増やすかが私たちの責務です。医師、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護福祉士、社会福祉士など、各分野の専門家が質の高いチーム医療を展開するのが、回復期リハビリテーションの大きな特徴です。
患者さんの情報をスタッフで共有し、患者さん一人ひとりに合わせたプログラムを組み立て、指導、練習を行います。退院後の生活が少しでも楽になるよう、後遺症の回復、日常生活動作の改善や向上はもちろん、患者さんとご家族の不安を取り除き、より質の高いリハビリテーションの実現を目指しています。
退院に向け家屋訪問を行い 環境整備、生活指導などを実施
退院の目途が立ったら患者さんのご自宅を訪問します。ご自宅で安全に日常生活を送ることができるか実際に部屋を確認して、住宅環境の整備を促したり、退院後のリハビリテーション、生活指導などを実施します。この「家屋訪問」には社会福祉士、理学療法士、作業療法士、担当するケアマネジャーなどが一堂に会し、玄関の入り方、家の中の移動方法、トイレまでの動線など、実際の動作をみんなで確認しながら「ここに手すりを付けた方がいい」「昼間は歩けるけど、夜は車椅子が必要」など議論をし、退院後の生活のイメージを想定します。患者さんが退院後も今まで通りの生活を送れるよう、住宅環境を整えてから退院日を決めています。
退院後の生活も見守れるよう地域とも連携
入院できる期間は限られているので、退院後も通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションなどで継続したリハビリテーションが行えるよう、担当のリハビリスタッフやケアマネジャーとの情報共有を行っています。また、かかりつけ医の先生との連携も大切にしており、何かあれば相談いただけるような関係性を築けるように努力しています。
その人らしさを取り戻し 活動を育むサポートを
私の考える患者さんのゴールは「活動を育む」ということです。障害と向き合いながら一つずつでもできることを増やし、その人らしい人生を過ごしてもらう。中には、奇跡的に回復され元通りの生活を送れるようになる患者さんもいらっしゃいます。一つずつできることを積み重ね、退院後の生活をできるだけ元の生活に近づけて復帰させる、それが我々リハビリテーション科の使命だと思っています。
ボツリヌス療法
脳卒中でよくみられる後遺症の一つに痙縮(けいしゅく)という症状があります。痙縮とは筋肉に力が入りすぎて勝手に手足がつっぱったり、曲がったりしてしまう状態のことです。日常生活に支障をきたすことはもちろん、痙縮そのものがリハビリテーションの妨げとなってしまうため治療が必要になります。
当院では痙縮の治療として、ボツリヌス療法を行っています。ボツリヌス療法は、力が入りすぎてつっぱってしまった筋肉を緩めるための薬を筋肉内に注射する治療です。これにより手足の筋肉がやわらかくなり、動かしやすくなる効果が期待できます。ただし、注射を打っただけでは痙縮が改善されるわけではありません。大切なのは注射を打った後に筋肉を動かしてあげること。動かしやすくなった状態でリハビリテーションを行うことで痙縮改善の効果が出やすくなります。
痙攣の症状
my favorite
「人生最後に何の車に乗ろうか」と考えたときに、子どもたちも独立し、1人で乗ることが多くなったので2シートのロードスターに買い替えました。ロードスターのオフ会に出たり妻と2人でドライブしたり、仕事をがんばれるよう自分の時間も楽しんでいます。
リハビリテーション科部長
浦田 彰夫 医師